東京地方裁判所 平成3年(特わ)1956号 判決 1992年6月04日
本店所在地
東京都新宿区新宿二丁目一一番七号第三三宮庭ビル九〇三号
株式会社
西和
(右代表者代表取締役 勝俣サワ子)
本籍
長野県佐久市大字大沢三七〇五番地
住居
東京都世田谷区松原五丁目二四番一〇号アーバンハイツ松原三〇一号
会社役員
勝俣サワ子
昭和一六年六月八日生
本籍
東京都杉並区大宮一丁目一一番
住居
東京都杉並区大宮一丁目一一番一五号
会社役員
横山
昭和二二年一一月二〇日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
検察官 蝦名俊晴、范揚恭 出席
主文
被告会社株式会社西和を罰金八五〇〇万円に、被告人勝俣サワ子及び被告人横山の両名を懲役一年二月にそれぞれ処する。
被告人勝俣サワ子及び被告人横山の両名に対し、未決勾留日数中四五日をそれぞれその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社株式会社西和は、東京都新宿区新宿二丁目一一番七号(昭和六二年一二月九日以前は同都同区大久保二丁目六番一六号)に本店を置き、ゴルフ会員権の売買及びその仲介等を目的とする資本金一〇〇〇万円(昭和六二年一一月三〇日以前は三〇〇万円)の株式会社であり、被告人勝俣サワ子は被告会社の代表取締役社長として、被告人横山は被告会社の代表取締役専務として、いずれも被告会社の業務全般を統括していたものであるが、両名は、共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、販売手数料を支払ったかのように仮装するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七〇〇三万五五六二円であった(別紙1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、同年六月一日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号の所轄淀橋税務署(同年七月一日新宿税務署と名称変更)において、同税務署長に対し、その所得金額が二六一二万八八〇三円で、それに対する法人税額が九二六万三〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成三年押第一二一一号の1)を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二八二二万八六〇〇円と右申告税額との差額一八九六万五六〇〇円(別紙2の脱税額計算書参照)を免れ
第二 昭和六二年四月一日から同六三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一一億六〇七一万八九〇円であった(別紙3の修正損益計算書参照)にもかかわらず、同年六月二二日、東京都新宿区三栄町二四番地の所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億六三四万五五五一円で、それに対する法人税額が八一二〇万一四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四億八二〇〇万二〇〇〇円と右申告税額との差額四億八〇万六〇〇円(別紙4の脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人両名の当公判廷における供述
一 被告人勝俣サワ子の検察官に対する供述調書(一三通)
一 被告人横山の検察官に対する供述調書(一二通)
一 樋口徹(三通。うち二通は謄本)、木津喜彦、田中みつ江、戸田清美、植崎稔(謄本)、阿部富津子(謄本)、山岸紀彦、榧野鈴子、大谷晶彦の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の販売手数料調査書、広告宣伝費調査書、受取利息・配当金調査書
一 登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本(二通)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の支払手数料調査書
一 検察事務官作成の報告書(二通。支払手数料の金額異動についてと題するものと、新宿税務署の所在地及び名称変更についてと題するもの)
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成三年押題一二一一号の1)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の売上高調査書、旅費交通費調査書、事業税認定損調査書
一 検察事務官作成の報告書(二通。販売手数料の金額異動についてと題するものと、事業税認定損調査書の金額異動についてと題するもの)
一 大蔵事務官作成の領置てん末書
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成三年押第一二一一号の2)
(法令の適用)
罰条 被告会社の判示各行為について
法人税法一六四条、一五九条一項、二項(情状による)
被告人両名の判示各行為について
刑法六〇条、法人税法一五九条一項(いずれも懲役刑選択)
併合罪処理 被告会社について
刑法四五条前段、四八条二項
被告人両名について
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条
未決算入 刑法二一条
(量刑の理由)
本件は、ゴルフ会員権の販売会社の社長及び専務であった被告人両名が、売上を除外したり、架空の販売手数料や宣伝広告費を計上するなどして、会社の所得を少なく見せ掛け、被告会社に対する法人税を二年度にわたって免れたという事案であるが、まずその脱税額に着目すると、昭和六一年度は約一九〇〇万円にとどまるが、同六二年度は約四億円に上り、両年度で併せて四億一九〇〇万円に達しており、この脱税額は、本件と同時期ころの脱税事犯の中でも多額の方に属する。また、ほ脱率も、両年度を通じて八〇パーセントを超えており、高いものとなっている。脱税の方法は、売上の除外、販売手数料の水増計上、架空販売手数料の計上、架空あるいは水増しした宣伝広告費の計上など、関係者と通謀するなどして意図的に様々の手口で行われており、後に述べるように、必ずしも当初から積極的に多額の脱税をしようとして計画的継続的に脱税手段を講じたとはいえない点はあるものの、脱税の方法は広範で巧妙でありよくない。脱税の動機の主たるものは、自分達のゴルフ場を持ちたいということにあったとしても、それは自らの事業欲を実現しようというものに過ぎず、個人的な事由に帰着し、特に酌量すべきものとはいえない。
他方、脱税額は多額であるが、国税庁の査察を受けて脱税が明確にされると、被告会社においては速やかに修正申告して、脱税した税額、重加算税、延滞税、更には地方税の修正分等の合計で、脱税額の倍近くの額を本件起訴前に全て納付している。また、被告会社をはじめ被告人らが関係する企業グループにおいて、本件査察を受けた後、経理システム・監視体制を改善して脱税を行えないような体制を整えると共に、社会に対する謝罪の意味を込めて、鋭意可能な限り多くの税金を納める努力をしてきており、被告人らも、本件以降の年度においてあえて会社から多額の所得を得て、できるだけ多くの所得税を納めようしてきており、さらに一人二五〇〇万円ずつという個人としては少なくない金額を出捐して、社会公共施設や団体に寄付をし、涙ぐましいほどの努力をして謝罪の気持ちを表している。そして、多額の脱税を行うに至った経緯には、被告人らの積極的な脱税意思が先行したというよりも、他からの誘いに乗ったという事情も窺われ、脱税のための手段の中でも多額の脱税につながった売上除外や架空の販売手数料計上は、思いつくままにわかに行われたとも認められ、当初から計画的に多額の脱税を目指して手段が講じられたとまではいえないところがある。さらに、被告人両名は本件脱税が国税庁に発覚した後は、一貫して深い悔悟と反省の態度を示し、長い期間にわたって今回の件について指弾され、自責の念にかられる日々を送ってきており、その他被告人両名の境遇、家族の状況など酌むべき事情がある。
以上の各事情及びその他諸般の情状、さらには、脱税事犯に対する処罰に当たっては、脱税の事前の一般予防という観点からの配慮をなさねばならないことを考慮し、主文のとおり量刑した。
(求刑 被告会社・一億五〇〇〇万円 被告人両名・懲役二年)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 松浦繁)
別紙1
修正損益計算書
<省略>
別紙2
脱税額計算書
<省略>
別紙3
修正損益計算書
<省略>
別紙4
脱税額計算書
<省略>